伝統と先端技術で日本の表現にチャレンジ







純粋な伝統と先端技術を併せ持つ国。それが僕の日本へのイメージでした。そこで用意したのが小さくて形も素朴な80年前のカメラです。そして出力はハイテクのデジタルプリンター。つまりカメラは伝統的なもので、プリンターは先端技術という日本のイメージに合わせたわけです。

さすがにここまで古いカメラですと技術的に思ったような撮影はできません。しかし逆に思い通りにならないところに私は価値を見いだしました。「ミステイク」という言葉がありますが、これはミスとテイクに分けられます。この言葉を日本語にすると「間違い」で、これも「間」と「違い」に分けられます。僕は写真を撮るという行為において、空間的、時間的な「間」とギャップ、つまり「違い」に興味があるんです。

今回使用したカメラは長い露光時間が必要です。N3の写真は露光が約5分。小さな島は知林が島。潮が満ちてきてるときの写真です。三脚にカメラをセットして、どんどん海水が迫ってきたので、僕は逃げてカメラに仕事を任せました。一番下に影が二つ映っています。ひとつは僕の影で、もうひとつはカメラの影です。結果として一枚の写真にいろんなストーリーが刻まれることになりました。

また、写真というものは仕上がりの平面イメージになると被写体が抽象的でも現実的なものになります。今回、桜島の姿に惹かれてよく撮ったのですが、桜島の存在自体を意識して写真を撮り、仕上がりは僕の感じた色で表現しています。でも、もしかしたら色は僕が自分の国から持ってきたのかも知れない。去年、初めて鹿児島に来て、ほとんど田舎を回りましたが、自分の家に来たみたいな感覚でした。日本語を話せなくても十分人と通じ合えたのですが、はたして僕の桜島は皆さんの感じている鹿児島の色とのギャップはあったのでしょうか?

撮影はいろいろ事前に研究してきますが、実際に撮るときはそれは一切忘れて、まったく自由な自分に戻っています。この80年前のカメラの宣伝文句は、子供のために技術を意識しないで写真を撮る喜びを味わおうというものです。そういう内面的なことが大事ですね。

シンポジウム
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