菊田樹子



【きくたみきこ】インディペンデント・キュレーター。明治学院大学社会学部社会学科卒業。株式会社リクルートで広告制作に携わった後、イタリアへ留学。ボローニャ大学にて写真史とイタリア美術史を学ぶ。 1999年から東京を拠点とし、国内・ヨーロッパで写真展・現代美術展などの企画・運営を手がける。 2001年より『日本に向けられたヨーロッパ人の眼・ジャパントゥデイ』写真プロジェクトのアーティスティックディレクターを務め、近年は、13人の日本人写真家がEU加盟国の現在をとらえた写真集シリーズ「In-between」の企画・編集、Officina Asia(ボローニャ、イタリア)、フォトエスパーニャ(マドリッド、スペイン)、フォトシンキリア(テサロニキ、ギリシャ)、塩竈フォトフェスティバルなどの企画協力・キュレーションに携わる。

自分が住んでいる場所を見直すきっかけに

「日本に向けられたヨーロッパ人の眼」という写真プロジェクトは1999年から始まり、今年は9回目です。毎年、ヨーロッパの写真家を日本に呼んで写真を撮ってもらいますが、大体ひとりの写真家がひとつの県を担当し、3~4週間滞在して作品を作ってもらいますので、今回の鹿児島一県に対して3名は珍しいですね。写真家の選定は大変な作業で、ひとつの国について1年くらいかけてリサーチをします。3~4週間、異国に滞在して撮りおろし作品が作れ、ある程度の経験があることが条件。また制作のスピードも必要です。今回は偶然に1970年代の若い写真家が集まりました。

この写真展は、外の人の眼から見た鹿児島がこういう風にも映りえるのだというひとつの例として見てただけたらと思います。これまで、さまざまな土地で写真展を開催してきて、「これは違うよ」といったご意見を多くいただくのですが、まさにその通りだと思います。彼らが撮る作品は現地の方には撮れないものですし、逆に現地の方でしか撮れない作品というものが当然あると思います。彼らの作品を見たことで、何かしらご自分が住んでいる場所について、もう一度考えたり、見直したり、もう一回見てみたりというようなきっかけになったら嬉しいと思い、続けさせていただいています。他県では、現地の写真家の方と一緒に写真展を開催したりといろいろな展開の例がありますね。

今回の見どころ



今回は、全く違うタイプの写真家が集まり、コンセプトから題材まで全然違うところが見どころです。スティーブンは、鹿児島市と志布志市を カメラを持って、ひたすら歩き回るというスタイル。彼のテーマは大きな社会問題やドラマチックな出来事ではなく、日常で街を歩いていると出会うすごく小さな題材に眼を向ける写真家です。人は仕事中などは意識的に秩序を保とうとしていますが、一人になって歩いている時など、無意識になった瞬間にその人の本当の姿がでていたりします。彼はそんな表情に注目して写真を撮っています。それらの写真を通して、彼は人間が好きなんだなぁということが伝わってきます。ちょっとした仕草や表情から、人間っておもしろいなぁと感じられる作品になっています。

ニク氏は、主に風景に注目している写真家です。今回はあちこち電車に乗ってかなり遠くまで旅をしながら写真を撮りました。鹿児島の豊かな風景にすごく魅力を感じたそうで、特に、山の存在感が非常に美しいということが印象に残っているようです。クニーは奄美大島に行って、現地の子供たちを撮りました。春の美しい風景と子供を組み合わせた作品なども撮っています。作風もそのように違いますが、額装についても全然違う方法を選んでいます。三人三様、作品にあった見せ方をしてますのでぜひ見てください。特に、ニク氏は彼が思いついたオリジナルの方法で注目です。

撮影場所の選定は、クニーに関しては子供のポートレートに魅力があるので、子供を撮って欲しいと思いました。彼女は2年前にアフリカで子供を撮っていて、環境の厳しい本当に砂漠での撮影だったとのことでしたから、今回は水が豊かな土地で、さらに島はどうかなと思ってリサーチをしました。彼女の撮り方がその土地に長い時間滞在をして撮るというスタイルなので、ある程度の大きさがあり、それで大きすぎず時間内に写真が撮れそうなところということで奄美大島に彼女と話して決めました。スティーブンは歩いて撮るタイプなので、まず鹿児島市、それからもう一カ所で志布志に。ニクさんは、放浪系かなと思ったのですが、事前に海や山の位置などの情報を提供してあげて、結局、霧島から指宿まで移動しました。

どんなものを撮るかということについては、事前に作家からいくつか提案をもらいます。でも、そのままのテーマでいくことはほとんどなくて、来てみると考えてたことと違うかので変更していきます。例えばギルも最初はアーリーバードという早起きな人を狙おうと考えてたんですが、撮り始めるととても面白くて、結局、夜まで撮るということになって、時間で区切ることはやめてしまいました。

写真で分かり合え、学んでいける

この写真展に関わってもう5年になりますが、ヨーロッパでは、日本の夕方4時が向こうの朝9時ですから、むこうとやりとりすると大変一日が長い感じになってしまいますね。今までヨーロッパの写真家と日本で仕事をしてきて、彼らは一ヶ月くらい滞在しますから、天候の関係でなかなかうまく撮影が進まなかったりすると、落ち込んできたりして、それを励ますなんてこともありましたね。あと、外を歩いてるときに、突然ひらめいて大声を出すとか、そのアイデアをそこで喋りだすとか、周りでは変な外国人がきて叫んでるなあ、みたいな妙な感じになったりするのは、けっこうあるんですよ。あと、2年くらい付き合いながら仕事をしていくので、だんだんお互いが分かり合っていく過程というのも面白いですね。いろいろ国や文化や立場が違っても、写真のことを突き詰めて語っていくと、最後はそこをキーワードとして生身の人間同士で分かり合え、学んでいけることが貴重なことですね。






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