写真展 European Eyes on Japan / Japan Today vol.9 プレイベント:セミナー

■日時:2008年4月5日(土) 14:00 より ■場所:かごしま県民交流センター 大研修室 第4
■講師 ●スティーブン・ギル氏 ●ニク・イルフォヴァーヌ氏 ●菊田樹子氏

 


コーディネーター:早川由美子
(PandA 代表)
▼14:00~14:10  主催者挨拶と講師3名のご紹介
▼14:10~14:45  スティーブン・ギル氏プレゼンテーション
▼14:45~14:50  休憩
▼14:50~15:25  ニク・イルフォヴァーヌ氏プレゼンテーション
▼15:25~15:40  菊田樹子氏レクチャー
▼15:40~15:50  質疑応答
▼15:50~15:55  さらに150倍おもしろく見る方法とは……!?

 

1971年イギリス・ブリストル生まれ、ロンドン在住。幼い時に、父親の影響で写真をはじめる。 10代の頃には、地元の写真スタジオで家族写真の撮影や古い写真の修復を手伝う。スピード現像のラボに勤務した後、フィルトン・カレッジ基礎コースで写真とアートを学ぶ。ロンドンのマグナム・フォトでアシスタントを務め、写真家として独立。ギルは、日常をユニークな視点で切りとったシリーズを多数展開している。 “Invisible”では、目立つために蛍光色の服を着て鉄道や町の工事を行う作業員が、むしろ景色に馴染んでしまっている矛盾に着目した。好奇心から生み出されるコンセプトと時代や社会を鋭く読み取るセンスに、ドキュメンタリー写真の魅力を融合しながら、新しい表現を切り拓いた。
 

www.stephengill.co.uk

日常からテーマを探す

私は日常をあるテーマで切り取ったシリーズを数多く発表してきました。「歌を聴いている人」というシリーズでは写真のタイトルを、写真に写ってる人がそのとき聴いている曲名と歌手名にしてみた。写真にただ写ってることだけじゃなく、見た人がそこからイメージを広げていけることが写真の面白さでもあると思うんです。

「手押し車を押す人」、「日帰り旅行」、「ロスト(迷子)」などや、写真自体を撮影したその場に埋めた「土の中に埋めた作品」シリーズなんてものもあります。「街の中の鳥たち」シリーズでは、テーマが鳥だからといって、画面から鳥以外のものを排除するのではなく、風景全体を取り込み、その中での鳥を撮ったので、探さないとわからないくらいの鳥の場合もあるんです。

ユニークな着眼点

広告看板の裏側を撮ったシリーズがあります。広告というものは本来、何かを見せ、何かを売るために存在するもので、みなさんは前からしか見ませんし、前から見るからこそて意義あるものですが、このシリーズは、それを逆手に取りました。後ろから撮っているということは何の広告だかわからないし、何を売りたいかも、何を訴えたいかもわからない。作品のタイトルは、前を通るとわかる看板の内容がそのままタイトルになっているんです。化粧品のロレアルの看板は「君に価値あるからこそロレアルを使おう」となっており、そのまま作品タイトルにしました。

「インヴィジヴル(目に見えないもの)」シリーズは、ロンドンシティで撮りました。本来ならば、蛍光色の作業服を着た人は、目を引くもの、注意をひかせるものとして存在するものですが、逆に風景に溶け込んで見えなくなっている面白さをとらえました。

以前、モノクロで写真を撮っていた頃は、もっとロマンティックなものや自分追求といったテーマで、旅をしながら写真を撮っていましたが、最近では、画像に入ってくるノイズや、いろいろなものが視覚的に画面に入ってくるのが好きになりました。だから、旅よりロンドンで写真を撮ることが多くなりましたね。

イーストロンドンにハックニーウィックという、かつて産業が栄え活気溢れていたのが、今は衰退して自然があちこちに混在している街があるんですが、そこを約100円のインスタントカメラで撮ったシリーズがあります。それから、ハックニーウィックで撮ってきた花を、ハックニーウィックの写真の上に置いて、それをさらに写真を撮った「花」シリーズもあります。このように重層的なイメージを込めた作品に面白さを感じますね。

 

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1975年ルーマニア・ピテシティ生まれ、ブカレスト在住。ブカレスト美術大学を卒業後、同大学で写真・映像の修士課程に学ぶ。2004年、ルーマニア・ユニオン・オブ・アーティスツの写真賞を受賞。現在は、ブカレスト美術大学写真・映像学科の教授を務めながら、写真から映像まで、多様な手法とテーマで作品を制作している。主に、ピントや露出が自由にコントロールできないボックス・カメラを用いて撮影を行う。目に見えている風景を正確に写しとるのではなく、あえて不可抗力に自らをゆだね、偶然が生み出す効果を引き受けながら、既視感をおぼえる独特な光景を創り上げていく。イルフォヴァーヌは、写真と映像との間を自在に行き交いながら、視覚表現のさらなる可能性を追求している。 www.ilfo.ro

時間の興味と色への興味

写真はモノクロから始め、最初の頃は簡単なものを撮っていました。うちで飼っているペットや自分の知人など、自分の身近なものを撮った「ドメスティック」シリーズは1996年~2000年にかけての作品です。それぞれのヒストリーを感じさせるよう撮りました。

「ノータイトル」というタイトル作品は96年に撮影して、意図して4年の歳月を経て2000年に現像しました。時間のギャップへの興味からあえてやってみたことです。

2004年からカラー写真を撮り始めましたが、第一次世界大戦の頃、カラー写真を保存する技術を持っていたフランス軍の写真部隊SPAを意識した「SPA」シリーズという作品があります。SPAがよく使っていたアウトクロムという技術を使って現像しました。
アウトクロム自体は、映画を発明したルミエールという兄弟が開発したと言われています。写真が当初はモノクロしかなく、後にカラーになっていったという歴史の中で、アウトクロムは完全にカラーではないけれどもカラーのように見せるという技法で、ジャガイモの澱粉を使って色をつけたという方法です。

古いカメラを使って撮った写真シリーズもあります。今回の写真展のパンフレットの写真も同じカメラで撮影したもの。これらは「色」が重要です。現像の時も発色に細心の注意をはらいました。写真展でもその色にぜひ注目していただきたい。色に関して、見えるものをそのまま写すのではなく、現像やカメラに工夫を凝らし、自分なりの独特のカラーを突き詰めて写真を制作しています。

 

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【きくたみきこ】インディペンデント・キュレーター。明治学院大学社会学部社会学科卒業。株式会社リクルートで広告制作に携わった後、イタリアへ留学。ボローニャ大学にて写真史とイタリア美術史を学ぶ。 1999年から東京を拠点とし、国内・ヨーロッパで写真展・現代美術展などの企画・運営を手がける。 2001年より『日本に向けられたヨーロッパ人の眼・ジャパントゥデイ』写真プロジェクトのアーティスティックディレクターを務め、近年は、13人の日本人写真家がEU加盟国の現在をとらえた写真集シリーズ「In-between」の企画・編集、Officina Asia(ボローニャ、イタリア)、フォトエスパーニャ(マドリッド、スペイン)、フォトシンキリア(テサロニキ、ギリシャ)、塩竈フォトフェスティバルなどの企画協力・キュレーションに携わる。

自分が住んでいる場所を見直すきっかけに

「日本に向けられたヨーロッパ人の眼」という写真プロジェクトは1999年から始まり、今年は9回目です。毎年、ヨーロッパの写真家を日本に呼んで写真を撮ってもらいますが、大体ひとりの写真家がひとつの県を担当し、3~4週間滞在して作品を作ってもらいますので、今回の鹿児島一県に対して3名は珍しいですね。写真家の選定は大変な作業で、ひとつの国について1年くらいかけてリサーチをします。3~4週間、異国に滞在して撮りおろし作品が作れ、ある程度の経験があることが条件。また制作のスピードも必要です。今回は偶然に1970年代の若い写真家が集まりました。

この写真展は、外の人の眼から見た鹿児島がこういう風にも映りえるのだというひとつの例として見てただけたらと思います。これまで、さまざまな土地で写真展を開催してきて、「これは違うよ」といったご意見を多くいただくのですが、まさにその通りだと思います。彼らが撮る作品は現地の方には撮れないものですし、逆に現地の方でしか撮れない作品というものが当然あると思います。彼らの作品を見たことで、何かしらご自分が住んでいる場所について、もう一度考えたり、見直したり、もう一回見てみたりというようなきっかけになったら嬉しいと思い、続けさせていただいています。他県では、現地の写真家の方と一緒に写真展を開催したりといろいろな展開の例がありますね。
 

今回の見どころ

今回は、全く違うタイプの写真家が集まり、コンセプトから題材まで全然違うところが見どころです。スティーブンは、鹿児島市と志布志市を カメラを持って、ひたすら歩き回るというスタイル。彼のテーマは大きな社会問題やドラマチックな出来事ではなく、日常で街を歩いていると出会うすごく小さな題材に眼を向ける写真家です。人は仕事中などは意識的に秩序を保とうとしていますが、一人になって歩いている時など、無意識になった瞬間にその人の本当の姿がでていたりします。彼はそんな表情に注目して写真を撮っています。それらの写真を通して、彼は人間が好きなんだなぁということが伝わってきます。ちょっとした仕草や表情から、人間っておもしろいなぁと感じられる作品になっています。

ニク氏は、主に風景に注目している写真家です。今回はあちこち電車に乗ってかなり遠くまで旅をしながら写真を撮りました。鹿児島の豊かな風景にすごく魅力を感じたそうで、特に、山の存在感が非常に美しいということが印象に残っているようです。クニーは奄美大島に行って、現地の子供たちを撮りました。春の美しい風景と子供を組み合わせた作品なども撮っています。作風もそのように違いますが、額装についても全然違う方法を選んでいます。三人三様、作品にあった見せ方をしてますのでぜひ見てください。特に、ニク氏は彼が思いついたオリジナルの方法で注目です。

撮影場所の選定は、クニーに関しては子供のポートレートに魅力があるので、子供を撮って欲しいと思いました。彼女は2年前にアフリカで子供を撮っていて、環境の厳しい本当に砂漠での撮影だったとのことでしたから、今回は水が豊かな土地で、さらに島はどうかなと思ってリサーチをしました。彼女の撮り方がその土地に長い時間滞在をして撮るというスタイルなので、ある程度の大きさがあり、それで大きすぎず時間内に写真が撮れそうなところということで奄美大島に彼女と話して決めました。スティーブンは歩いて撮るタイプなので、まず鹿児島市、それからもう一カ所で志布志に。ニクさんは、放浪系かなと思ったのですが、事前に海や山の位置などの情報を提供してあげて、結局、霧島から指宿まで移動しました。

どんなものを撮るかということについては、事前に作家からいくつか提案をもらいます。でも、そのままのテーマでいくことはほとんどなくて、来てみると考えてたことと違うかので変更していきます。例えばギルも最初はアーリーバードという早起きな人を狙おうと考えてたんですが、撮り始めるととても面白くて、結局、夜まで撮るということになって、時間で区切ることはやめてしまいました。
 

写真で分かり合え、学んでいける

この写真展に関わってもう5年になりますが、ヨーロッパでは、日本の夕方4時が向こうの朝9時ですから、むこうとやりとりすると大変一日が長い感じになってしまいますね。今までヨーロッパの写真家と日本で仕事をしてきて、彼らは一ヶ月くらい滞在しますから、天候の関係でなかなかうまく撮影が進まなかったりすると、落ち込んできたりして、それを励ますなんてこともありましたね。あと、外を歩いてるときに、突然ひらめいて大声を出すとか、そのアイデアをそこで喋りだすとか、周りでは変な外国人がきて叫んでるなあ、みたいな妙な感じになったりするのは、けっこうあるんですよ。あと、2年くらい付き合いながら仕事をしていくので、だんだんお互いが分かり合っていく過程というのも面白いですね。いろいろ国や文化や立場が違っても、写真のことを突き詰めて語っていくと、最後はそこをキーワードとして生身の人間同士で分かり合え、学んでいけることが貴重なことですね。

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